糖質制限プログラム
当院では血糖コントロールとダイエット目的で糖質制限プログラムの指導を行っています。
糖質制限食には以下のような利点があります。
1. 食後血糖が上昇しにくい。
食事の三大栄養素(糖質、蛋白質、脂質)のうちで糖質だけが血糖値を上昇させ、
インスリンを分泌させる。
2. 空腹感が強くない。
糖質以外の脂肪、蛋白質は食欲抑制ホルモンの分泌を促進するので、食欲が亢進しにくい。
3. カロリー計算が要らない。
糖質制限をすると、自然に総摂取カロリーは減少する。
(糖質を減らしても、蛋白・脂肪の摂取量はそれほど増えない)
4. 消費カロリーが低下しにくい。
糖質制限食は食事誘発性熱産生(食後に身体が温まる現象)が大きいため、消費カロリーが多い。
5. 食べても脂肪になりにくい。
インスリンが脂肪蓄積を促進するので、糖質制限でインスリンが少なくなれば、脂肪が蓄積しにくくなる。
しかし、糖質制限食には注意すべき点もあります。
1. 安全性
短期的:血中ケトン体の増加
・ケトン体増加の病的意義については明らかではない(悪いとは限らない)。
長期的:
・糖質制限で高脂肪・高蛋白食になると、長期的には動脈硬化や癌のリスクが増加?
厳格な糖質制限(糖質比40%未満)では、長期的に死亡率増加の報告あり。(※1)
緩やかな糖質制限(糖質比40~50%)では、明らかな問題はなし。(※2)
日本人では、緩やかな糖質制限により、死亡率が低下という研究結果(※3)もあり。
・現時点では、緩やかな糖質制限(160~180g/日程度:糖質比で40~50%)が妥当と思われる。
2. 糖質制限ダイエットを避けたほうがいい人
・糖尿病で薬物治療中:低血糖の危険
・肝障害:(糖新生低下による)低血糖の危険
・腎障害:高蛋白食による悪化の可能性
・胆石・膵炎:高脂肪食による悪化の可能性
・小児、妊婦:安全性が確立していない
糖質制限食を実際に行うにあたって考えるべきこと
1. 体重減少の目標設定
体重の3%の減少で各種指標は改善 → ダイエット目標は体重の5%減量
2. 糖質制限の程度:1日の糖質量
・総カロリーが一緒であれば、糖質量が異なってもダイエット効果は同等。
・糖質制限が厳しいほうが、総カロリーが少なくなって、体重は減りやすい。
・しかし、厳しい糖質制限は、長期の安全性がまだ不明。
・緩やかな糖質制限(160~180g/日程度:糖質比で40~50%)を目標とする。
3. 糖質制限のやりかた:1日1回 or 2回 or 3回?
・1回か2回を完全に制限するか、3食均等に制限するか?
食後血糖の安定化:3食均等の制限がbetter
糖質制限しない食事の後では、血糖が急上昇。
ダイエット効果:1回か2回の完全制限がより効果的?
糖質オフの時間が長いほうが、脂肪が燃焼されやすい。
夕食を糖質制限:朝まで糖質オフなので、脂肪の燃焼が進みやすい。
体内時計
朝に糖質を摂取したほうが、体内リズムが整いやすくなる。
・それぞれ利点はあるので、個人にあったやり方をすればよい。
4. 蛋白質は何がいいのか?
・動物性蛋白質中心の糖質制限食で死亡率が増加。(※4)
・植物性蛋白質中心の糖質制限食では死亡率が増加せず。(※4)
・赤身肉(牛、豚)よりも白身肉(鶏、魚)を摂取したほうが心臓病、癌の発生が少ない。
(※5)
・脂肪の組成からは、肉よりも魚のほうが望ましいと思われる。
5. 脂肪は何がいいのか?
・飽和脂肪酸(動物性脂肪)は一般的に動脈硬化を促進すると言われる。
しかし、日本人では飽和脂肪酸の摂取で、脳卒中による死亡が減るという報告(※6)もあり、
一概に控えるべきとは言えない。
・一価不飽和脂肪酸(オリーブオイルなど)は心血管疾患の発症を少なくするので多く摂取したほうがよい。(※7)
・ω3系脂肪酸(魚、ナッツ)は抗動脈硬化作用があるので積極的に摂ったほうがよい。
(※8)
・ω6系脂肪酸(植物油の一種)は動脈硬化を進める可能性があるので控えめのほうがよい。
(※9)
以上のことをふまえ、当院では下記のような糖質制限プログラムを行っています。
糖質制限実践コース
全5回
1回目 血液・尿検査(肝機能、腎機能、脂質、血糖)、問診、目標設定(体重の5%減)
栄養指導:1日3食中、2食の糖質制限(80g/日 2週間)
2回目(2週間後) 尿検査(ケトンの確認)、問診
栄養指導:1日3食中、2食の糖質制限(80g/日 2週間)
3回目(4週間後) 尿検査(ケトンの確認)、問診
栄養指導:1日3食中、2食の糖質制限(130g/日 4週間)
4回目(8週間後) 尿検査(ケトンの確認)、問診
栄養指導:1日3食中、1食の糖質制限(160g/日 4週間)
5回目(12週間後) 血液・尿検査(肝機能、腎機能、脂質、血糖)、問診、目標達成の確認
栄養指導:1日3食中、1食の糖質制限の継続(160g/日)
下の図は当院の糖質制限プログラムによる体重変化のイメージです。
しかし、実際にはこの通りになるとは限らず、体重減少の程度により、適宜、糖質量の調整をします。
参考:1日の糖質量のおおまかな目安
(一般的な食事では、おかずの糖質量は15~30gになるので、単純におかずの糖質量を20gとすると)
・糖質制限なし(日本人の標準的摂取量)
(主食の糖質60g + おかず 20g) × 3回、 間食で10g = 250g
[米飯 150g(1膳)で糖質約60g) ]
・3回とも主食を半分
(主食の糖質30g + おかず 20g) × 3回、 間食で10g = 160g
・1回(主食抜き、おかずを制限)、2回は普通
(主食の糖質60g + おかず 20g) × 2回、 間食なし = 160g
・1回(主食ぬき、おかずを制限)、1回主食を半量、1回は普通
主食の糖質(60g + 30g) + おかず 20g × 2回、 間食なし = 130g
・2回主食抜き、1回は普通
主食の糖質60g + おかず 20g × 3回、 間食で10g = 130g
・2回(主食抜き、おかずを制限)、1回は普通
(主食の糖質60g + おかず 20g) × 1回、 間食なし = 80g
※参考文献
1. Trichopoulou A et al., Eur J Clin Nutr. 2007 May;61(5):575-81.
2. Nilsson LM et al., Eur J Clin Nutr. 2012 Jun;66(6):694-700.
3. Nakamura Y et al., Br J Nutr. 2014 Sep 28;112(6):916-24.
4. Funn TT et al., Ann Intern Med. 2010 Sep 7;153(5):289-98.
5. Sinha R et al., Arch Intern Med. 2009 Mar 23;169(6):562-71.
6. Yamagishi K et al., Am J Clin Nutr. 2010 Oct;92(4):759-65.
7. Guasch-Ferré M et al., J Am Coll Cardiol. 2017 Nov 14;70(20):2519-2532.
8. Yamagishi K et al., J Am Coll Cardiol. 2008 Sep 16;52(12):988-96.
9. Ramsden CE et al., BMJ. 2013 Feb 4;346:e8707.