SIADHとCSW

はじめに

 ADH不適切分泌症候群(SIADH)の領域でいえば、従来無症候性低Na血症と考えられてきた症例が実際には認知機能の低下や骨の脆弱化などいろいろな障害を持つことが明らかとなり、無症候性低Na血症という概念が揺らいできている。一方、欧米ではここ数年急速にバゾプレシン(AVP)受容体拮抗薬の使用が増加してきている。残念ながら日本では適応疾患の問題もありまだ普及には程遠いが、いずれは欧米並みに普及することが期待される。その場合に、どの程度までの低Na血症を治療対象としていくかは今後の検討課題であろう。CSW(cerebral salt wasting syndrome; 中枢性塩類喪失症候群)に関しては、近年中枢神経疾患を伴わない例が報告されておりRSW(renal salt wasting syndrome)という用語がより適切とも言われている。そこで、その概念と機序について改めて概要を述べる。

 

SIADH

1. 慢性低Na血症の症状及び合併症

SIADHの臨床症状とは低Na血症によるものであり、低Na血症の症状とは脳浮腫によるものと考えられてきた。低Na血症の程度が軽度でしかも発症が慢性であれば、症状は一般に軽度で倦怠感、頭痛、嘔気・嘔吐、失見当識などである。一方低Na血症の程度が重度でしかも発症が急であれば症状は重篤で、痙攣、昏睡を生じ、脳ヘルニアから死にいたることもある。特に閉経前の女性は脳浮腫の高リスク群と言われている。その機序としてはestrogenとprogesteroneによって脳のNa+/K+ ATPaseが阻害され,結果として,脳細胞からの溶質の放出が減少することが想定されている1。この細胞からの溶質の放出は脳浮腫に対する生体の代償性機構として重要であり、脳細胞が細胞内の電解質やmyo-inositol、glutamateなどの有機溶質を放出することにより、細胞内の水分を減少させて細胞容積を小さくすることで脳浮腫の改善につながる2。このような代償性機構により従来125~135mEq/L程度の慢性の低Na血症では一般には症状を示さないことが多く、無症候性低Na血症と呼ばれてきた。しかし、近年無症候性にみえても実際には各種の症候を持っていることが明らかとなり、この無症候性低Na血症という概念が揺らいできている。従来、心不全患者では低Na血症があると予後不良であることが報告されている3。後述するように、近年、慢性低Na血症では認知機能の低下から骨折のリスクが増大するという報告が相次いでいる。今後、高齢者人口の増加、サイアザイド含有降圧剤、選択的セロトニン再取り込み阻害剤、プロトンポンプ阻害剤などの普及により、慢性の軽度の低Na血症は増加が予想される。その場合にどの程度までを治療対象にするかは、今後考えていくべき課題となる可能性がある。

 

1)低Na血症と骨

最近低Na血症では転倒による骨折のリスクが高くなるという報告が相次いでいる4,5。その原因としては不安定な歩行、転倒時の速やかな反応が出来ない、骨の脆弱化などが原因と考えられている。VerbalisらによるNHANES Ⅲの臨床データの解析では血清Na 133 mEq/Lの軽度低Na血症の群ではNa正常の群に比べ、BMDが低く、骨粗鬆症(T-score <2.5)のoddsが2.9倍だった6。一方、低Na血症では骨折のリスクが高くなるが、これはBMDの低下とは無関係だという報告もある。Kinsellaらによる検討では低Na血症における骨折の増加はBMDの低下では説明できなかった7。5000人以上を対象としたRotterdam studyでも低Na血症患者が転倒の回数が多かったが、血清NaとBMDとの間に相関はみられなかった8。

低Na血症では転倒と無関係な腰椎骨折も増加することから、骨折の原因としてBMDの低下を伴わない骨質の低下も示唆されている。低Na血症における骨質の低下についてはやはりVerbalisらがSIADHラットモデルで検討している6。それによると血清Na 110 mEq/Lの高度の低Na血症を3ヶ月持続すると、ラットのBMDは30%低下し、海綿骨と皮質骨がともに障害された。破骨細胞の増加と血中の骨形成マーカーであるosteocalcinの低下が見られた。このように低Na血症では骨吸収が亢進し、その理由として、低Na血症に対する代償作用として骨に蓄積されているNaを動員するためではないかと推察されている。低Naモデルでは25(OH) vitamin Dと1,25(OH)2 vitamin Dの血中濃度は低かったがPTH濃度には差がなかった。老齢ラットにおいても、やはり18週間の低Na血症により、大腿骨頸部や椎骨のBMDが低下しており、大量のvitamin Dを投与することで、このBMDの低下は防止された9。さらに同グループによる前破骨細胞を用いた実験で、培養液中のNa濃度を低下させると破骨細胞の新生と破骨細胞による骨吸収が増加し、破骨細胞内へのascorbic acidの取り込みが減少した。その結果破骨細胞内の酸化ストレスが増大して破骨細胞の機能が亢進し骨粗鬆症につながると推察された10。ただし骨細胞が培養液中のNa濃度を感知する仕組みはまだ不明である。

 現在のところ低Na血症を改善することで、骨折の減少や骨粗鬆症が改善するというデータはない。しかし、今後そのような成績が得られるならば、より積極的なスクリーニングで骨折のリスクや骨粗鬆症の進行を予防することが期待される

 

2)骨以外

 Barsonyらは前述のSIADHの老齢ラットを用いて慢性低Na血症が体内各臓器の老化に与える影響を検討している9。それによると、1) 性腺機能低下:血清testosteroneの低下とLH, FSHの上昇、精巣重量の著明な減少、精子形成の低下2) 体脂肪の減少、3) 骨格筋量の減少、4) 心肥大と間質の線維化、を観察している。これらは前破骨細胞での検討の場合と同様、細胞外液のNa濃度の低下による酸化ストレス増大によるものと推察されている。また、性腺機能低下が筋量減少や骨の脆弱化をさらに促進している可能性も考えられる。このように慢性低Na血症は体内各臓器の老化を促進すると考えられ、これが慢性低Na血症での死亡率の増大につながる可能性が示唆される。

 

2.AVP受容体拮抗薬

1)Conivaptan (YM-087; Vaprisol)

世界初のAVP受容体拮抗薬(V1a/V2受容体拮抗薬)として、2005年12月にFDAより承認され、2006年4月に米国で発売が開始された。EUおよび日本では承認されていない。

適応は体液正常~貯留型低ナトリウム血症である。当初は重篤な中枢神経症状を有する体液正常型の低ナトリウム血症の患者に対して血清Na補正のために短期間(海外治験では4日間)投与する目的で開発、承認された。その後、体液貯留型の低Na血症にも適応拡大された。注射薬であって入院中の短期間投与が原則である。CYP3A4の阻害作用を有する薬剤およびジゴキシンとの相互作用が指摘されており、特にCYP3A4の阻害作用を有する薬剤については併用禁忌である。治験段階では、患者の約9%に急速な血清ナトリウム濃度の急激な上昇(>12mEq/L)が認められたが、橋中心髄鞘崩壊(central pontine myelinolysis; CPM)に代表される浸透圧性脱髄症候群(osmotic demyelination syndrome; ODS)の発症はみられなかった。

 

2)Mozavaptan ( OPC-31260; フィズリン) 

世界初の非ペプチド性選択的AVP V2受容体拮抗剤として1997年に開発され、経口選択的V2受容体拮抗剤として日本で2006年10月に発売が開始された。EUおよび米国では承認されていない。適応は異所性抗利尿ホルモン産生腫瘍によるSIADHにおける低ナトリウム血症の改善で、既存治療で効果不十分な場合に限られている。治験症例数が異所性AVP産生腫瘍16例、その他12例ときわめて少なく、希少疾病医薬品に指定されている。使用に際してはWeb登録が必要である。用法・容量としては30mgを1日1回経口投与し、投与開始3 日間で有効性が認められた場合に限り、引き続き7 日間まで継続投与することができる。ODSの発症予防のため、使用は入院患者に限り、本剤投与開始日には投与4 ~ 6 時間後並びに8 ~12時間後に血清Na濃度を測定して、必要に応じ飲水量あるいは輸液(5 %ブドウ糖液)を増量させ、血清Na濃度の上昇が24時間で10 mEq/Lを超えないようにする。

 

3)Tolvaptan (OPC-41061; サムスカ, Samsca)

米国ではFDAにより2009年5月に、心不全、肝硬変、およびSIADHなどの患者における、臨床的に問題となる体液貯留型、および体液正常型低Na血症に対する治療薬として承認された。EUでも2009年8月にSIADHによる低Na血症の治療薬として承認された。

欧米では初めての経口選択的AVP V2受容体拮抗剤であり、外来での長期投与が可能であるため、海外では以下のような多くの臨床試験の成績がある。しかし、米国で15mg製剤が1錠約250ドルと高価であるため、外来での長期投与は現実には医療経済的に困難な状況ともいわれる。

 

(1) SALT試験(Study of Ascending Levels of Tolvaptan in Hyponatremia)11

心不全、肝不全、SIADHが原因であり、循環血液量が正常あるいは増加した低Na血症患者(血清Na 135mEq/L未満)においてtolvaptanの有効性を検討したものである。

対象患者数はSALT-1(tolvaptan 102例、placebo 103例)、SALT-2(tolvaptan123例、placebo 120例)。 15mg/日で開始し、効果不十分であれば4日目までに60mg/日まで増量し、30日間観察したのち、tolvaptanを中止してさらに1週間観察するというプロトコールである。結果として、placebo群の血清Naが4日目0.3 mEq/L, 30日目1.7 mEq/Lの上昇であったのに対し、tolvaptan群では4日目 3.7mEq/L, 30日目 6.2 mEq/Lと有意の上昇を認めた。投与を中止すると約1週間で再びplacebo群と同程度まで血清Naは低下した。また、tolvaptanの投与により認知機能が有意に改善したことが示された。

 

(2) SALT WATER試験12

SALT1およびSALT2の観察期間が30日間であったのに対し、より長期の効果を観察したものである。対象はSALT1の参加者のうち38例、およびSALT2の参加者73例の計111例(tolvaptan 56例、placebo 55例)で平均の観察期間が701日であった。この間、血清Naは投与前の130.8mEq/Lから投与期間全体を通して135 mEq/L以上を維持できた。副作用として多かったのは口渇、頻尿、倦怠感、多飲などであった。血清Naが145mEq/L以上になったのは18例であった。

 

(3) SALTサブ解析(SIADH)13

 SALT1およびSALT2の参加者のうちサブグループとしてSIADHの患者をtolvaptan群58例とplacebo群52例に割り付け、その効果を検討したものである。Tolvaptan 30mg あるいは60mgは投与後より速やかに血清Naの上昇を認め、4日目および30日目のいずれにおいても低Na血症を有意に改善した。過剰補正(血清Naが24時間で12 mEq/L以上、48時間で18mEq/L以上の上昇)と考えられたのは3例(5.9%)のみであった。このうち2例は24時間で13 mEq/Lの上昇を認め、もう1例は14mEq/Lの上昇がみられた。3例ともODSには至らなかった。低Na血症の改善に伴い、身体的要因の有意な改善と精神要因の改善傾向が得られた。

 

(4) EVEREST試験(Efficacy of Vasopressin Antagonism in Heart Failure Outcome Study with Tolvaptan)14

心不全悪化によって入院した患者において、標準治療にtolvaptanを追加した場合の有効性および安全性を検討したものである。Tolvaptan 60mgを少なくとも60日以上投与し、平均9.9ヶ月間観察した。短期有効性試験では7日後(早期退院の場合は退院時)の臨床症状の変化、長期予後試験では全死亡,心血管死+心不全による入院を検討した。患者数はtrial A(tolvaptan1018例,placebo 1030例),trial B(tolvaptan1054例,placebo 1031例)。 結果、短期効果としてはtolvaptan群では1日目から有意な体重減少を認め、呼吸困難も有意に改善した。腎機能、心拍数、血圧に有意な影響は認めず,低Na血症の患者では血清Naの改善が見られた。しかし,長期予後ではtolvaptanとplaceboの間に心疾患死や心不全による再入院に有意差を認めなかった。

 

(5) ECLIPSE試験(EffeCt of toLvaptan on hemodynamIc Parameters in Subjects with hEart failure)15

Tolvaptanの血行動態への影響を検討したものである。対象は進行した心不全患者181名。Swan-Ganzカテーテルを留置し,tolvaptanを投与して8時間観察した。結果として,尿量は増加、PCWP、右房圧(RAP)は減少し,尿浸透圧は低下、血漿浸透圧は増加した。降圧効果は限定的であった。

 

本邦におけるtolvaptan使用の現状

国内では第3相臨床試験(QUEST試験)が行われた。従来治療の利尿薬を投与しても心不全の改善が見られない110例を対象としtolvaptan 15mgあるいはplaceboが投与された。Tolvaptan投与群では尿量増加、体重減少、浮腫の軽減を認めた。この成績に基づき、tolvaptanは日本では2010年12月に利尿剤に反応しない心不全に対して販売が開始された。SIADHを含む低Na血症に対する保険適応はなく、むしろ血清Na 125mEq/Lの患者はNaの急激な上昇によるODS発症の危険性から慎重投与となっている。用法・用量としては他の利尿薬(ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬、抗アルドステロン薬等)と併用して、15mgを1日1回経口投与する。しかし、販売開始後から血清Naが170 mEq/Lを超えるような重症の高Na血症の報告が相次ぎ、発売元からは何度も適正使用に関する注意文書が出されている。具体的には、本剤投与開始後24時間以内に水利尿効果が強く発現するため、少なくとも投与開始4~6 時間後並びに8~12時間後に血清Na濃度を測定すること、投与開始翌日から1 週間程度は毎日測定し、その後も投与を継続する場合には、適宜測定すること、血清Na濃度125mEq/L未満の患者に投与した場合、急激な血清Na濃度の上昇によりODSを来すおそれがあるため、 24時間以内に12 mEq/Lを超える上昇がみられた場合には、投与を中止すること、となっている。また、飲水制限を行っている患者への投与に際しては、飲水量、尿量、血清ナトリウム濃度を十分に観察しながら、本剤投与期間中に限り必要に応じて飲水制限を緩和して体液管理を行う必要がある。しかしながら、その後も高Na血症の発症は後を絶たず、今後は高Na血症の発症予防に対するより効果的な対策の確立が必要である。

 

4)その他開発中のものとしてLixivaptan(VPA-985), satavaptan(SR121463B)がある。Satavaptanについては臨床試験もされているが、まだ承認には至っていない16。

 

3.ODSの発症予防

前述のごとく、V2受容体拮抗剤の使用が普及するとともに、低Na血症における血清Naの急激な上昇が報告されODS発症の危険性が問題となっている。血清Naの上昇を24時間で10mEq/L以内に抑えるという目安はあるが、慢性アルコール中毒や低K血症など高リスク群ではこの範囲内でもODSを発症する可能性は否定できない。従来、ODSの機序として脱髄部位におけるミクログリアの集積と活性化が重要と言われている17。SuzukiらはSIADHの動物モデルを用いた実験でminocyclineがODSの発症予防に非常に有効であることを報告した18。用量は4.5 mg/kg体重と臨床用量に近いものである。作用機序としては脱髄部位におけるミクログリアの活性化と炎症性サイトカインの発現を抑制するためと考えられた。現在この結果に基づいて、名古屋大学を中心にminocylineのODS発症予防効果に関する臨床治験が進行しており、成果が期待される。MinocyclineによるODSの発症予防効果についてはGankamらによる報告もある19。

 

CSW

SIADHは原因が何であれ基本的にAVPの過剰分泌に起因するものであるが、CSWはいまだにその機序がはっきりとは解明されていない。以前はその存在自体に疑問がもたれていたこともあるが、近年はむしろ報告が増加し認知が進んできている。従来は頭蓋内疾患に合併するものとしてCSWという用語が用いられてきたが、近年、中枢神経疾患を伴わなくてもCSWと同じ病態を呈する症例の報告が増加し、Maesakaらはより一般的な概念としてRSWという用語が適切と述べている20。検査所見におけるSIADHとの違いとして、SIADHでは低Na血症の改善後に血清尿酸値の低下が回復するが、CSWでは低Na血症の改善後も尿酸が低値のままで、これが両者の鑑別に役立つという報告がある21。しかし、低Na血症が改善したあとの尿酸の値を参考にしていては初診時の鑑別には役に立たない。CSWでは尿中のリン酸排泄が亢進しているがSIADHでは亢進しないとされており、リン酸排泄率(FEPi)が20%以上に増加(正常は20%未満)しているかどうかがSIADHかCSWかの初診時の鑑別に有用という報告もある22。これらの妥当性についてはさらに詳細な検討が必要と思われる。

 

上述のごとくCSWの機序の詳細はいまだに明らかではないが、基本の病態は尿細管におけるNaの排泄増加であり、体液性因子と神経性因子の関与が推察されている。CSWでは尿中Na排泄が増えるとともに尿素、リン酸、尿酸、リチウムの排泄率も増加することが報告されており、このことからCSWの主病変部位は近位尿細管と想定されている22。CSWはこれが中枢神経疾患に伴って生じると考えられるが、RSWではそのような明らかな要因はないため、腎尿細管の障害がなぜ生じるかは不明である。

 

 

A. 体液性因子

低尿酸血症で尿酸排泄率が亢進していた脳神経外科患者やアルツハイマー患者の血漿をラットに注入するとNaやリチウムの尿中排泄率が増加したという報告がある23,24。このことからも、CSWの機序として体液性因子の関与が示唆されてきた。

 

(1) Na利尿ペプチド

従来、CSWの体液性因子の候補としてANP、BNPなどのNa利尿ペプチドが考えられてきた。しかし、これらのペプチドは作用部位の主体は集合尿細管であるが、CSWの主なNa再吸収の障害部位は近位尿細管と想定されている。また、ANP、BNPはGFR増加や血圧低下作用を持つが、前述の脳神経外科やアルツハイマー患者の血漿投与ではGFR増加や血圧低下などの効果は観察されなかった。ANP、BNPの腎作用としては、GFRの上昇作用及び集合管におけるNa再吸収の抑制が重要である。集合間管でのNa再吸収抑制はアミロライド感受性カチオンチャネルからのNa再吸収抑制による。アミロライド感受性カチオンチャネルにはcGMP依存性カチオンチャネルと上皮Naチャネルの2種類が存在するが、Na利尿ペプチドの作用部位とチャネルの発現部位からみて、cGMP依存性キナーゼを介したcGMP依存性カチウムチャネルの閉鎖による機序が重要と考えられている25。その他、近位尿細管でのアンギオテンシンⅡで刺激されたNa再吸収の抑制や髄質血流の増大によるHenle上行脚でのNaCl再吸収の抑制も報告されている26。

ANPとBNPのどちらがより重要かについても結論は出ていない。くも膜下出血(SAH)後には頭蓋内のみならず全身に様々な異常が出現する。SAH発症直後には心電図異常や急性肺水腫が出現し、発症1~2週間後には無症候性の低Na血症が出現する。これに伴い脱水傾向となることでSAH後の脳血管攣縮に対する増悪因子となる。IsotaniらはSAH後の低Na血症に関する臨床ならびに基礎研究の結果からCSWの機序を以下のように想定した27。SAH発症直後はAVP, BNP, ANPのいずれも異常高値を示した。AVP, BNPはその後速やかに正常化したが、ANPは異常高値が1週間以上持続した。2週目に入ると低Na血症を呈した群ではANP高値が持続し、低Na血症にならなかった群ではANPは正常化した。以上より、CSWの機序としてANPの持続的過剰放出によるNa利尿が重要と考えた。さらにウサギを用いた基礎実験から、SAH後の脳血管攣縮期には迷走神経の過剰興奮から肺動脈の弛緩能が減弱して神経原性肺水腫を生じ、後負荷が増大することから心房からのANP放出が増大すると推察した。このように一般的にはANPのほうがより重要という報告が多い。これに対し、SAH後にANPは正常でBNPが高値であり、BNP濃度が低Na血症や尿中Na排泄と相関したという報告もある28。また、ANPを人に投与しても中等度のNa利尿が得られるだけでCSWの病態は再現できなかったという報告もある。

 

(2) 内因性ジギタリス様物質

内因性ジギタリス様物質(内因性ウアバイン)はSAHなどの頭蓋内疾患に伴い視床下部での産生が増え、局所的および全身的に作用する29。内因性ジギタリス用物質の作用として腎尿細管のNa+/K+ ATPaseを阻害してNa排泄を増加させる。また交感神経トーンの持続的亢進を惹起して血圧低下なしに血管内脱水を引き起こす。腎動脈還流圧の増大の結果、圧利尿を生じる。また、心臓からのANP、BNPの分泌を促進する。このような機序によりCSWへの関与が示唆されているが、頭蓋内手術後における血漿濃度の結果は一定ではない。また、その利尿作用は強いものではなくCSWの主な原因とは考えにくいと考えられている。

 

B. 神経性因子

上述のごとく、SAHのあとでは一般に交感神経系のトーンの亢進がみられる。しかしその後、中枢神経障害により腎臓の交感神経支配の減弱がみられることがありうる。腎臓の交感神経系が亢進すると、塩分排泄性遺伝子であるWNK4発現が抑制される。FujitaらはWNK4発現抑制が遠位尿細管のNaチャネルを活性化し、その結果としてNa再吸収が亢進して血圧が上昇することを確認した30。逆に腎臓の交感神経系のトーンが減弱すると、遠位尿細管のNaチャネルを介したNa再吸収が減少することが示唆される。一方、中枢神経障害による腎交感神経のトーンの減弱は尿細管全体でのNa再吸収を減少させるという報告もある31。また。交感神経系のトーンの減弱はレニン分泌を減少させ、レニン-アルドステロン系の反応性低下から遠位尿細管でのNa再吸収低下につながると考えらえる。近年本邦ではCSWと似た病態のものとして、Ishikawaらが提唱する高齢者でみられる鉱質コルチコイド反応性低Na血症(MRHE)がある。高齢者では腎臓の交感神経支配の減弱から低レニン血症を呈するものも多く、機序からみてもRSWと似た病態と考えられるが、MRHEの詳細については他項に譲ることにする。

 

おわりに

 前述のごとく、欧米ではSIADHの治療は、従来の水制限を主体としたものから、V2受容体拮抗剤を中心としたものに変わりつつある。しかし、日本ではmozapatanは異所性ADH産生腫瘍にしか適応がなく、またtolvaptanの適応は利尿剤でコントロール不良な心不全のみであり、ともに一般的なSIADHには使用ができない状況である。今後は高齢化社会の進行とともに慢性低Na血症の患者の増加が予想され、わが国でも早急な適応拡大が望まれる。

 

文献

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