多尿の鑑別診断

①多尿の診断は図1のように、血漿及び尿浸透圧から水利尿と溶質利尿(浸透圧利尿)に分けて鑑別を進めるとわかりやすい。実際には、尿崩症、心因性多飲症以外の疾患の多くは、原疾患による症状所見や病歴により鑑別可能と考えられ、まず糖尿病や腎不全、電解質異常などを血液生化学検査などのスクリーニング検査で除外することが重要である。なお、通常、尿比重 1.010が尿浸透圧 350 mOsm/kgH2O程度となるので、尿比重 1.005は低張尿である。

 

②中枢性尿崩症:下垂体からのAVPの分泌低下によるものである。多尿を突然発症することが多く、尿量は1日10L以上となることもある。口渇は冷水に対する嗜好性が強い。原因は80%以上が続発性尿崩症であり、胚腫、頭蓋咽頭腫などの腫瘍やリンパ球性下垂体炎、IgG4関連下垂体炎などの炎症によるものが多い。ACTH分泌不全を伴うと仮面尿崩症を呈することもある。原因不明の特発性尿崩症が13%程度あり、AVP遺伝子異常による家族性中枢性尿崩症も稀にある。

 

③腎性尿崩症:腎のAVP感受性の低下によるものである。先天性と、各種腎疾患に伴う尿細管障害による続発性とがある。先天性腎性尿崩症はAVPのV2受容体あるいはアクアポリン2遺伝子の異常によるものであり、生後まもなく発症する。後天性の腎性尿崩症の原因としては間質性腎炎や慢性腎盂腎炎、アミロイドーシスなどがある。また、高Ca血症、低K血症あるいはリチウム製剤投与なども腎性尿崩症の原因となる。中枢性尿崩症と異なり、AVPの作用低下を代償するために血漿AVPは高値となる。

 

④心因性多飲症:精神科疾患を有する患者に多く見られ、飲水量の増加により結果として多尿を呈する状態であって、尿崩症と異なり脱水になることはない。心因性多飲症では尿量が飲水量に依存するため、日内変化が大きく、夜間の尿量は日中に比べ相対的に減少する。また、飲水により抑制されるため血漿AVPは低値となる。

 

⑤心因性多飲症と中枢性尿崩症の鑑別点を表1に示すが、重要なのは、夜間多尿の有無と、血清Na値である。心因性多飲症では日中は多飲多尿になるが夜間は尿量が減少するのに対し、中枢性尿崩症では昼夜関わらず多飲多尿を呈する。また、血清Naは、心因性多飲症では正常低値で135~140 mEq/Lとなることが多い。中枢性尿崩症では正常高値となるが、渇感障害がなければ口渇閾値である145 mEq/Lを超えることは通常ない。血漿AVP濃度は心因性多飲症と中枢性尿崩症のどちらでも低値となるが、心因性多飲症では血漿AVPが測定下限以下まで低下することは稀である。また、心因性多飲症と中枢性尿崩症の鑑別には、下垂体MRIが有用である。正常な下垂体後葉はAVP分泌顆粒の存在を反映してT1強調像で高信号となる。これは心因性多飲症でも保たれるが、中枢性尿崩症ではこの高信号の消失が特徴とされる。ただし、高齢者では正常でも後葉の高信号が消失することがある。

 

⑥血漿AVPの値は、血漿浸透圧や血清Naとの相対的な関係で評価する必要がある。図2に血漿浸透圧あるいは血清Naと血漿AVPのグラフを示す。血漿浸透圧の測定は不安定な場合があることから、計算式を用いている。両側の線で囲まれた中央部が正常範囲内で、これより右側だと分泌低下、左側だと分泌過剰となる。本来AVPの分泌刺激となるのは血漿浸透圧であるが、著明な高血糖の場合などを除いては血清Naで評価するほうが簡便である。注意すべきなのは、グラフからわかるように血清Naが141 mEq/L以下であれば、血漿AVPが低値でも必ずしも分泌低下とは言えないことである。このため、多尿の程度が軽い場合であれば、前夜から飲水制限をし、翌朝血清Naが上昇した状態で血漿AVPを測定するというのもスクリーニング方法として可能である。ただし、安易な水制限は危険である。また、尿中AVPの測定が中枢性尿崩症のスクリーニングに有効との報告もある。健常者の随時尿中AVP濃度は89.5 ± 76.5 pg/mgCrであったのに対し、中枢性尿崩症患者の場合7.0 ± 3.0 pg/mgCrであり全例が13 pg/mgCr以下であった。

 

⑦負荷試験

a) 高張食塩水負荷試験は5%食塩水を0.05 ml/kg/minで120分間点滴投与し、その間30分ごとに血清Naと血漿AVPを測定するものである。図2に示すように、健常者では血清Naの上昇とともに血漿AVPの上昇が認められるが、中枢性尿崩症ではこの反応が減弱ないし消失している。腎性尿崩症では血漿AVPの基礎値が高値で、血清Naの上昇に対し過大反応を示す。

b) 水制限試験は、検査日の朝から体重の3%の減少、あるいは最大6時間半まで飲水を制限し、その間経時的に体重、尿量、血漿・尿浸透圧、血漿AVPを測定するものである。健常者では水制限とともに尿量は減少し、尿浸透圧は上昇して300mOsm/kgH2O以上となり、血漿AVPも上昇する。しかし、尿崩症患者では著明な口渇感を強いる過酷な検査であり、腎機能の影響も受けることから、第一選択とはならない。ただし、血漿AVPの測定がなくても尿崩症の診断がある程度可能であり、近年一時的に日本で血漿AVPの測定が不可となった時は、苦肉の策として水制限試験が施行される場合が増加した。

 

⑧AVPのアッセイ法の違いについて:以前に使用されていた三菱化学メディエンス製のAVP RIAキット(AVP RIA「ミツビシ」)は、血漿AVPの測定下限が0.2 pg/mLと極めて低く、感度と特異性にすぐれていた。しかし、2012年に抗血清の枯渇からキットの製造が中止となり、しばらく血漿AVPの測定ができない期間があった。その後、三菱化学メディエンス(現LSIメディエンス)の新しいキット(AVP RIA ネオ「ミツビシ」)により血漿AVPの測定が再開されたが、測定下限は0.8 pg/mLであり、治療としてデスモプレシン(DDAVP)投与中の患者では検査結果が高値となるため使用不可という制限があった。続いて発売されたヤマサのキット(AVPキット「ヤマサ」)では、測定下限は0.4 pg/mLで、DDAVPの影響はみられない。新旧3つのキットの違いを表3に示す。図2の血漿AVPの正常範囲は三菱化学メディエンスの旧キットを用いて定められたものであるが、新しい2つのキットのいずれも旧キットとの相関性は非常に高いので、新しいキットにも適用可能と考えられる。

 

表1.多尿を呈する疾患の鑑別診断

 

           中枢性尿崩症      腎性尿崩症       心因性多飲症  

多尿の発症        突然          不定           不定

冷水嗜好         +++          ±               ±

夜間尿          +++         ++~+           +~±

血清Na値          正常~上昇        正常~上昇              正常~低下 

血漿AVP値        低下                 正常~上昇              正常~低下 

血清尿酸値        上昇                  上昇                     低下

腎のAVP反応性      正常                   低下                    正常

下垂体後葉高信号     消失                   あり              あり

  (MRI T1強調画像)

 

表2. AVP RIAキットの違い

 

キット名           AVP RIA「ミツビシ」    AVP RIA ネオ「ミツビシ」     AVPキット「ヤマサ」

検査受託会社      三菱化学メディエンス       ?                   SRL, BML, LSI?

血漿検体量 (mL)        1.2                2.2                                1.5

測定下限値 (pg/ml)     0.2                            0.8                                   0.4

DDAVP使用中            可          不可(高値となる)                          可

尿中濃度測定             可                            不可                         可*

                                   (*保険適用については要確認)