バゾプレシン、オキシトシン遺伝子発現調節機構

はじめに

バゾプレシン(AVP)とオキシトン(OT)はともに下垂体後葉から分泌されるペプチドホルモンである。主に視床下部の視索上核(SON)、室傍核(PVN)の大細胞性神経(MCN)で産生され、軸策輸送で下垂体後葉へ運ばれた後、血中へ分泌される。PVNには小細胞性神経もあり、ここで産生されたAVP、OTは下垂体前葉を始め、脳内の様々な部位に投射される。さらにAVPは視交叉上核でも産生されている。AVPとOTの受容体はいずれも細胞膜7回貫通のG蛋白共役型受容体である。AVPには3種類の受容体が知られている。V1a受容体は血管平滑筋、肝臓に分布し、それぞれ血管収縮、グリコーゲン分解作用を示す。またV1a受容体は脳内にも広く分布しており、記憶、情動に関与するとされている。V1b受容体は下垂体前葉のACTH産生細胞に存在し、PVNの小細胞性神経で合成されたAVPが下垂体門脈に分泌されることによりV1b受容体を介して下垂体前葉からのACTH分泌を促進する。V2受容体は腎尿細管に存在し、AVPはV2受容体を介して水チャネルであるアクアポリン2の発現と管腔側細胞膜への細胞内移動(Shuttle trafficking)を増強させることにより尿細管での水再吸収を増加させて、抗利尿作用を現わす。遺伝的にAVPを欠損するBrattleboro ラットでは、このAVPの抗利尿作用の欠如により著明な多尿を呈する。AVPはV2作用により血管内皮からのvon Willebrand 因子や血液凝固の第Ⅷ因子の放出を促進することが知られており、血管内皮細胞にV2受容体が存在するという報告もある1)。このことからV2受容体選択的アゴニストであるDDAVPは尿崩症の治療だけでなく、血友病などの血液凝固異常症に対しても用いられることがある。一方、OTの受容体は1種類のみ同定されており、主に子宮平滑筋及び乳腺腺房周囲の筋上皮に分布し、それぞれ子宮収縮、乳汁分泌の作用を示す。OTのノックアウトマウスでは、予想に反し分娩は正常に行われたが、授乳ができないため児は新生児期に死亡した2)。さらに、OT受容体は脳内にも広く分布し、性行動、母性行動、また摂食行動などに関与するとされている。

 

AVP、OT遺伝子と、前駆ホルモンのプロセッシング

AVPとOTは共に9個のアミノ酸からなり、そのうち2個が異なるのみである(図1)。系統発生的には非常に古いホルモンであり、もともと一つの遺伝子から約4億5千年前に複製で生じたと考えられている3)。哺乳類以外の魚類、両生類、爬虫類、鳥類はAVPのかわりにバソトシンを分泌し、OTのかわりに硬骨魚はイソトシンを、両生類、爬虫類、鳥類はメソトシンを分泌する。AVPはヒトを含めたほとんどの哺乳類では8位のアミノ酸がアルギニンのアルギニンバゾプレシンであるが、ブタ、カバなどごく一部の哺乳類では8位のアミノ酸がリジンのリジンバゾプレシンである。AVP遺伝子とOT遺伝子は同じ染色体上(ヒトでは20番染色体)の同じlocusにあり、約10kbをはさんで、背中合わせに並んでいる(図2)。AVPとOTの構造遺伝子には高いホモロジーが存在するが、それに比べ5’上流領域の配列は大きく異なる。共に3つのエクソンよりなり、エクソン1はシグナルペプチドとAVPまたはOT、及びニューロフィジン(NP)の最初の部分をコードする。エクソン2はNPの中間部をコードする。AVP遺伝子のエクソン3は残りのNPと糖蛋白をコードするのに対し、OT遺伝子には糖蛋白がなく、NPの残りのみをコードする(図3)。AVPとOTはまずリボゾームでそれぞれアミノ酸145個あるいは106個のプレプロホルモンとして合成され、ゴルジ装置を経てLDCV(large dense core vesicles)と呼ばれる小胞にパックされて軸策輸送により下垂体後葉へ運ばれる。以下AVPを例に取ると、この間にAVP前駆体であるプレプロAVPはまずシグナルペプチドが切断され糖鎖が付加されたプロAVPとなりさらにNP、糖鎖が切断されて成熟AVPとなる。この際に産生されたNPはシャペロン蛋白としてAVPと3次元的に結合してAVPを安定化させその軸策内輸送を手助けすると考えられている。NPのこの役割は予想以上に重要であり、遺伝的に中枢性尿崩症を発症する家族性中枢性尿崩症においては、遺伝子変異の多くがNP領域に見出だされており、異常NPが産生された結果、AVPの正常な軸策内輸送が起きず、異常なNPとAVPの集合体が小胞体内に蓄積して、神経細胞の変性を惹起し、尿崩症を発症するという機序が想定されている4)。下垂体後葉に運ばれて貯留された分泌顆粒内のAVP、OTは、他の神経伝達物質と同様刺激-分泌連関と呼ばれる機構で血管へと放出される。すなわち、ホルモン放出刺激により神経細胞体から軸索終末へと伝えられる活動電位により軸索終末の細胞膜が脱分極してCaチャネルが開きCa2+の細胞内流入が起こるとLDCVが細胞膜と融合して開口分泌(exocytosis)により、内容物であるAVP、OTが細胞外へと放出される。

 

AVP、OTの遺伝子発現調節

AVP、OTの遺伝子発現調節は①生理的刺激②各種神経ペプチドあるいは神経伝達物質③転写因子による調節、の3段階にわけると理解しやすい。以下そのそれぞれについて解説していく。しかし当然のことながらこれらはお互いに密接に関連しており、例えば①の浸透圧刺激により②として神経ペプチドであるPACAPが脳内で分泌され、それによりAVP産生細胞内のcAMP濃度が上昇した結果、③としてリン酸化されたCREB(cAMP response element binding protein)がAVP遺伝子プロモーターのCRE (cAMP response element)領域に結合し、AVP遺伝子の発現を増強するという一連の事象が惹起される。浸透圧あるいは脱水刺激はAVP、OTに対する分泌刺激であるが、AVP、OTの遺伝子発現も同様に促進する。これに限らずAVP、OTに対する分泌刺激は両遺伝子の発現も増強する場合が多い。その一つの理由として、前述の如く、AVP、OTの分泌を促進するには、分泌刺激により神経細胞が興奮して細胞膜が脱分極し、発生した活動電位が神経終末まで伝導する必要があるが、一方神経細胞体にもCaチャネルは存在するため、膜の脱分極によりCaチャネルが開いてCa2+の細胞内流入が起こると、それによりCREBのリン酸化が促進され、その結果遺伝子発現も同様に刺激されるという機序が想定される。一般に下垂体後葉でのAVP、OTの貯留が過剰あるいは枯渇しないよう、分泌とホルモン産生とは上手くバランスを持って制御されている。しかし、その仕組みについては未だ不明である。

 

生理的刺激による発現調節

AVP

AVPの遺伝子発現及び分泌は主として血漿浸透圧及び循環血液量の変化による調節を受けている。浸透圧受容器は第三脳室前腹側壁の終盤脈絡器官(OVLT)や脳弓下器官(SFO)などに存在すると想定されている。血漿浸透圧の上昇がこれらの部位で感知され、視床下部PNV、SONのAVPニューロンにその情報が伝達されて、AVPの分泌が促進される。一方視床下部のAVPニューロン自身にも浸透圧感受性があるとされている。また、血液量の減少及び血圧の低下もAVPの分泌刺激となる。血液量の増加は左房壁の伸展受容器などの容積受容器で感知され上行性の迷走神経によって延髄弧束核に伝えられる。一方血圧の上昇は頚動脈洞や大動脈弓にある圧受容器で感知され、それぞれ舌咽、迷走神経により延髄弧束核に伝えられる。これらの経路は通常状態ではAVP分泌を持続的に抑制しており、血液量減少あるいは血圧低下時にこれらの抑制が解除されることでAVPの分泌が亢進する。弧束核からは延髄腹外側部A1領域、青班核A6領域などを介してのノルアドレナリン作動性神経が視床下部のPVN、SONに投射されAVP分泌に対し促進的に作用する。他の生理的刺激として、頚動脈小体や大動脈小体には化学受容器があり低酸素血症を感知するとそれぞれ舌咽あるいは迷走神経を介して脳幹のノルアドレナリン作動性ニューロンを活性化することによりAVP分泌を刺激する。また、低血糖もAVPの分泌刺激となるがその機序はよくわかっていない。

 

OT

OTの分泌は乳児による吸乳刺激や性交時及び分娩時の膣・子宮の伸展刺激により促進される。妊娠末期にはOT遺伝子の発現が著明に増加する。これには妊娠中のエストロゲンとプロゲステロンの増加及びそれに続くプロゲステロンの減少という両者の連関した時間的変化が必要と考えられている5)。分娩後にはOTの発現は急激に低下し、その後、授乳期に再び増加する。この増加は吸乳による乳頭刺激によると考えられる。なお、分娩時には子宮内膜や胎盤にもOTが発現しており、子宮内でオートクリン、パラクリン的に作用している可能性がある。OTは卵巣でも発現しており、月経周期に伴い発現が変動することから性ホルモンによる調節を受けていると考えられる。精巣にもOTは発現しているがその調節機構は明らかではない。

 

各種神経ペプチドあるいは神経伝達物質による発現調節

表1、表2に示すように多くの古典的神経伝達物質あるいは神経ペプチドがAVP及びOTの分泌に影響することが報告されている。これらはMCNに対する直接的な作用、あるいは他のニューロンを介しての間接的な作用と考えられる。実際、PVN、SONのAVP、OTニューロンには表3のように多数の受容体及びチャネルが存在している。表3に挙げた受容体のうちPACAP、galaninなどはそのリガンドもPVN、SONでの発現が認められ、オートクリンな作用が示唆される。興味深いことにAVPとOT自体の受容体もPVN、SONに発現しており、樹状突起から分泌されたAVP、OTが自身あるいは近隣の細胞に作用してAVPあるいはOTの神経終末からの分泌に対しそれぞれ抑制または促進的に作用することが報告されている6)。それ以外でも、IL-1、IL-6などのサイトカインがAVP分泌を促進することが知られている。このため、各種炎症の際には炎症部位で産生されるサイトカインによりAVPの分泌が刺激され、抗利尿ホルモン過剰分泌症候群(SIADH)を生じることがある。またMCNには一酸化窒素合成酵素(NOS:主にnNOS)が存在しており、さらに浸透圧刺激により発現の増加がみられる。NOSにより産生されたNOは、浸透圧負荷によるAVP、OTの分泌増加に対し抑制的に作用するとされている7)。

 

AVP、OT遺伝子プロモーターと転写因子による調節

表4に視床下部のAVP、OTニューロンで発現している転写因子を示す8)。

表4.視床下部のAVP、OTニューロンで発現している転写因子

 

bZIP

CREB

CREM

ICER

ATF2

c-fos

c-jun

 

核内受容体

ERβ

TRα

TR4(testis receptor 4)

GR

 

POU-homeodomein protein

Brn2

Brn4

Otp

 

bHLH-PAS

Sim1

Arnt2

CLOCK

BMAL1

 

Basic leucin zipper transcription factor(bZIP)

AVPのプロモーター領域にはCREが存在している(転写開始点よりヒト; -174 to +44、ラット; -227 to -220 & -123 to -116、ウシ; -120 to -112)9-11)。CREBはcAMP-dependent protein kinase Aあるいはcalcium/calmodulin-dependent kinaseによりリン酸化される転写因子である。浸透圧刺激によりMCNのcAMP濃度が上昇することが知られており、また、神経伝達物質による電気的興奮によりCa2+の細胞内流入が起こる。これらの結果リン酸化されて活性化されたCREBはAVP遺伝子のCREに結合し、その発現を刺激すると考えられるが、その直接的な証拠はまだない。一方CREBと同じfamilyに属するCREM、ICERもMCNで発現しており、CREBの作用を抑制的に調節していると考えられている。なお、CREBはMCNにおいてAVP以外にもc-fosなど多くの遺伝子の発現を調節しており、それらの遺伝子産物によっても、さらにAVP遺伝子の発現が調節されている可能性がある。c-fos、c-junもbZIP familyに属する転写因子である。各種刺激に対し早期にそれに対応するニューロンで発現が見られることから、immediate-early geneと呼ばれ、神経活動のマッピングにも用いられる。視床下部においても浸透圧負荷、脱水刺激あるいは吸乳などによりAVP、OT産生細胞での発現が認められる。しかし、その活性化の機序はよくわかっていない。c-fos、c-junはダイマーを形成して標的遺伝子プロモーター領域のAP-1 cis-acting siteに結合し発現を調節するが、ラットAVP遺伝子プロモーター領域のAP-1 siteにc-fosが結合するという報告もある12)。しかし、AVPあるいはOT遺伝子自体の発現調節にc-fos、c-junが関与するという直接的な証拠はまだない。

 

核内受容体

核内受容体はステロイドホルモンや甲状腺ホルモンなどの受容体で、リガンドと結合することで活性化される転写因子であるが、リガンドが不明なものも多くオーファン受容体と呼ばれる。OT遺伝子のプロモーター領域には核内受容体の標的エンハンサー配列の基本モチーフであるAGGTCAが多数存在し、リガンドで活性化されたER、ER、TR、RAR、RARによりプロモーター活性が亢進する。特にラットの場合では-172 to -148が最も重要で、ここにはパリンドローム型であるEREやダイレクトリピート型のDR0などが存在し、この部位を欠失するとT3、estradiol、retinoic acidに対する反応性が著明に低下するという13)。視床下部MCNには核内受容体のうちER、TRが発現しており、ラットにおいてin vivoでも甲状腺ホルモンの投与によりOT遺伝子の発現増加が見られる14)。エストロゲンは単独投与ではOTの発現を減少させるという報告があるが、前述のようにプロゲステロンと共に投与するとOTの発現を著明に増加させる。その他、表4に示す以外にもRAR、RAR、RXR、RXR、COUP-TFⅠ、COUP-TFⅡ、Ear2がMCNで発現しているという報告もある。オーファン受容体のなかではSF-1がOT遺伝子の発現を基礎状態で促進させている15)。COUP-TFⅠ、COUP-TFⅡ、Ear2はそれ自体ではOTプロモーターの活性を変化させないが、T3、estradiol、retinoic acidによる遺伝子発現の増強に対し抑制的に働く16, 17)。これは-172 to -148の部位に対するこれらの受容体の結合をCOUP-TFⅠが競合的に阻害するためと考えられている。グルココルチコイド(GC)は視床下部でのAVPの発現を抑制することが知られており、副腎を摘除するとPVN小細胞性神経でのAVPの発現増加が認められる18)。通常状態ではグルココルチコイド受容体(GR)の発現は小細胞性神経のみでMCNには発現していないため、GCによるAVP発現の抑制は小細胞性神経では認められるが、MCNではみられない。これに対し、慢性の低Na血症下ではMCN AVPニューロンでのGRの発現が増加して、MCNでもGCによるAVP遺伝子の発現抑制がみられるようになる19)。下垂体機能不全では、GC不足のため低Na血症状態にもかかわらずGCによるAVPの発現抑制が減弱しSIADHを呈することがある。GRはホモダイマーとしてGREに結合し、遺伝子の転写活性を調節する。ラットAVP遺伝子のプロモーター領域には-622 to -608の部位にconsensus GRE(AGAACAnnnTGTTCT)があるが、この部位はGCによるラットAVPの発現抑制には関与しないとされている10)。一方ウシAVP遺伝子では-300 to -155の部位がGCによるAVP発現抑制に必要という報告がある20)。この部位にはconsensus GREはないが、それとよく似たTGTGCA、CGTCCAが存在し、それらを介する可能性が想定されている。

 

POU-homeodomain protein

POU-homeodomain proteinのうち視床下部のPVN、SONにはBrn-2、Brn-4が発現している。AVPおよびOT遺伝子のプロモーター領域にはhomeodomein consensus motifであるTAATGGがいくつか存在するが、これらの転写因子はOT遺伝子においては-1535 to -1270の部位に結合するという21)。Brn-2のノックアウトマウスではPVN、SONのMCNが欠落していたことから、Brn-2は視床下部のMCNの形成に必要な転写因子であると考えられた。さらにBrn-2ノックアウトのヘテロ接合体ではMCNは正常に形成されたが、AVP、OTの発現量が半減していたことから、成熟後のこれら遺伝子の発現調節にも関与していると考えられた22)。他のPOU-homeodomain proteinであるOtpも視床下部MCNで発現している。そのノックアウトマウスではBrn-2のノックアウトの場合と同様に視床下部でのMCNの形成不全が認められた23)。さらに詳細な検討から、OtpはBrn-2の上位に位置し、Brn-2の発現を調節していることが明らかとなった。なお、Brn-2は後述するSim1、Arnt2によっても発現調節を受けている。

 

bHLH-PAS

このfamilyに属する転写因子ではSim1とArnt2が視床下部MCNで発現している。これらのノックアウトマウスはいずれもPVN、SONでのMCNの欠落が認められた。その後の検討で、これらはヘテロダイマーを形成して前述のBrn-2の発現を調節することにより、視床下部MCNの発生に関与すると考えられている24)。一方他のbHLH-PAS属の転写因子であるCLOCKもPVN、SONで発現している。CLOCKは他のbHLH-PAS属の転写因子であるBMAL1とヘテロダイマーを形成し、標的遺伝子プロモーター領域のE-box enhancer element(CACGTG)に結合してその発現を調節する。AVP遺伝子プロモーター領域にはいくつかのE-box motifがあり、そのうち-150位のものがCLOCK-BMAL1による転写調節に関与するとされている25)。CLOCK-BMAL1は視床下部のSCNでも発現しており、日内リズムの形成に重要な役割を担っている。SCNで発現しているAVPは、CLOCK-BMAL1により発現が日内変動を示すと考えられている。一方、PVN、SONにおけるAVP遺伝子の発現は日内変動を示さず、これらの部位でのCLOCK-BMAL1の役割はいまだ不明である。

 

 

遺伝子転写後の発現調節機構

PVN、SONのMCNにおいてAVP及びOT のmRNAは、各種刺激により発現量の変化に加えてmRNAの3’側にあるpoly-A tailの長さについても変化することが知られている。視床下部におけるAVP、OTの mRNAはpoly-A tailの長さが約250塩基と、もともと他の視床下部mRNAに比べて長いpoly-A tailを有しているが、脱水刺激や浸透圧刺激により約400塩基へとさらに増加することが報告されている26)。この現象には種差があり、ラットやニワトリではみられるが、マウスではみられない。また、視床下部OT mRNAのpoly-A tailは妊娠、授乳期にも増加することが報告されている。poly A-tailの長さの延長によりmRNAの安定性が増し翻訳効率が上昇すると推測されているが、その意義の詳細は明らかではない。また、poly A-tailの長さの調節機構についてもわかっていない。

 

組織特異的発現調節機構

AVP、OTは視床下部PVN、SONのMCNで最も高濃度に発現している。またAVPはSCNでも発現し、OTは子宮、卵巣、精巣など脳以外でも発現している。このようなAVP、OT遺伝子の組織特異的発現を決定する遺伝子領域が種々の変異遺伝子を導入したトランスジェニック動物の解析から明らかとなってきている。ウシAVP遺伝子を用いた検討では、AVP遺伝子とその5’側1.25kbを含むトランスジーン(導入遺伝子)では体内の全ての組織に発現が見られたのに対し、5’側1.25kbと3’側0.2kbを含むトランスジーンでは神経組織のみに発現が認められた。さらに5’側9kbと3’側1.5kbを含む場合は視床下部PVN、SONのMCNのみに発現が見られた27)。ラットのAVP遺伝子を用いた検討では、AVP遺伝子とその5’側5 kb、3’側3 kbを含むトランスジーンがPVN、SONのAVP細胞のみで発現がみられ、浸透圧刺激により発現が増強するという生理的調節も受けていた28)。しかし、このトランスジーンはSCNでの発現はほとんど見られなかったという。さらにいろいろなトランスジーンを用いた検討から、AVP遺伝子の視床下部特異的発現には5’側よりも3’側の遺伝子領域が重要ということが明らかとなってきている。しかし、その部位の特定や機序については未だ不明である。一方、OT遺伝子についても、ウシOT遺伝子を用いた検討で、OT遺伝子とその5’側0.6 kb及び3’側1.8 kbを含むトランスジーンはPVN、SONのMCNに限局した発現が見られた29)。これに対し、5’側0.6 kbと3’側2.5 kbを含む場合は精巣のSertoli細胞での発現はみられたが、視床下部での発現は認められなかった。従って、3’側の1.8kbと2.5kbの間にはこの遺伝子の視床下部での発現を抑える作用があるものと考えられた。このトランスジーンもまた食塩負荷により視床下部での発現が増強するという生理的調節を受けていた。さらに、AVPとOTの遺伝子は染色体上で隣接して存在するため、AVPとOT遺伝子の両方を含むトランスジーンを用いた解析をしたところ、これら2つの遺伝子領域がお互いの発現に対し抑制的に作用するという結果が得られている30)。このことはPVN、SONのMCNにおいてほとんどの細胞はAVPまたはOTのどちらかを発現するのみで両方を発現する細胞はごく僅かであるということと関係しているかもしれない。

 

おわりに

AVP、OT遺伝子の発現調節機構について述べてきた。生理的調節機構については従来より詳細な解析が続けられて豊富な知見が得られてきているが、両遺伝子とも遺伝子のプロモーター領域の転写調節部位とそれに対する転写因子については未だ不明な点が多く、この分野での今後の研究の進展が期待される。

 

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