血漿AVP基準値の新旧乖離

以前の三菱化学メディエンスのキットと新しいヤマサのキットのAVP測定値の相関性は非常に高いと言われていた。

しかし、実際には以前に作成された血漿AVPの正常範囲と、最近の高木らの論文結果の正常範囲とでは大きな乖離がある。

下記のように、高張食塩水負荷試験の結果が緑線の場合、旧基準では分泌低下となるが、新基準では正常範囲となる。

さらなる検討が必要と思われるが、現時点では新基準に従うのが賢明と考えられる。

         新正常範囲はTakagi et al.  Endocrine Journal 2019 EJ19-0224.をもとに作成

LC-MS/MSによるAVP測定

近年、LC-MS/MSを用いたAVPの測定法が開発されている。

日本電子株式会社 (JEOL Ltd.)が測定キット(JeoQuant™ AVP)を発売している。

https://www.jeol.co.jp/products/supplies/JeoQuant-AVP.html

Development of a sensitive liquid chromatography-tandem mass spectrometry method for quantification of human plasma arginine vasopressin

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34455342/

 

 

LC-MS/MSは抗体を用いたRIAと違って、類似ペプチドとの交差性がなくて測定が正確であり、RIAが数日かかるのに対し、数時間で測定できるという利点がある。

ただし器械は高価で、使用には熟練を要し、また多数の検体を扱うには困難があるとされる。

 

名古屋大学のHandaらは、JeoQuant™ AVPを用いた高張食塩水負荷試験による中枢性尿崩症(AVP-D)の診断を報告している。

The time of the hypertonic saline infusion test for the diagnosis of AVP deficiency can be shortened with LC-MS/MS

J Clin Endocrinol Metab. 2025 Jul 30:dgaf432.

 

LC-MS/MS(JeoQuant™ AVP)による血漿AVPの測定結果をヤマサのRIAキットによる結果と比較している。

両者の間には強い相関がみられるが、興味深いことにヤマサのRIAキットによるAVPの値は、LC-MS/MSによる値の約半分程度と低値である。そうなると、以前の三菱のキットのほうがヤマサのキットよりもLC-MS/MSの測定値に近いのかもしれない。

 

なお、欧米ではAVPのsurrogate markerとしてcopeptinの測定が広く行われている。

A Copeptin-Based Approach in the Diagnosis of Diabetes Insipidus

N Engl J Med. 2018 Aug 2;379(5):428-439.

 

copeptinはAVPの前駆蛋白からAVPと同時に産生・分泌され、血中でより安定であることからAVPよりも測定が容易である。一方半減期が長いため(AVP 12分、copeptin 26分)、AVPに比べて血清Naのダイナミックな変動を反映しないデメリットも考えられる。

日本でも三菱のAVP RIAキットの使用が不可になったときに、代用としてcopeptin測定の使用が検討されたことがあったが、結局実用には至らず、現在もcopeptin測定は保険適用となっていない。

 

血漿AVP値のヤマサRIAキット(X軸)とLC-MS/MS(Y軸)の間の相関

(Handa et al. J Clin Endocrinol Metab. 2025 Jul 30:dgaf432. )