重症熱性血小板減少症候群(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome :SFTS)は、主にSFTSウイルスを保有しているマダニに刺されることにより感染するダニ媒介感染症である。
感染症法では四類感染症に位置付けられている。
病原体:フェヌイウイルス科バンダウイルス属の重症熱性血小板減少症候群(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome : SFTS)ウイルス
潜伏期:6日~2週間程度
臨床症状:
発熱、消化器症状(嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、下血)を主徴とし、時に、腹痛、筋肉痛、神経症状、リンパ節腫脹、出血症状などを伴う。
血液所見では、血小板減少(10万/㎣未満)、白血球減少(4000/㎣未満)、血清酵素(AST、ALT、LDH)の上昇が認められる。
SFTSの致死率に関する詳細:
ヒトの場合:約10~30%
厚生労働省によると(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169522.html)
犬の場合:約40%
食環境衛生研究所によると(https://www.shokukanken.com/colum/colum-23453/)
猫の場合:約60%
食環境衛生研究所によると(https://www.shokukanken.com/colum/colum-23453/)
診断:血液、血清、咽頭拭い液、尿から病原体や病原体遺伝子の検出、血清から抗体の検出
治療:対症療法、※国内では、抗ウイルス薬(ファビピラビル)の使用が承認されている。
予防:草むらなどマダニが多く生息する場所に入る場合には、長袖、長ズボンを着用し、サンダルのような肌を露出するようなものは履かないことなど、マダニに刺されない予防措置を講じる。
厚生労働省:重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について より
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169522.html
日本におけるSFTS感染者(ヒト)の届出は西日本に多いが全国的に報告がある。SFTSの感染者数は増加傾向にあり、2021年からは全国で毎年100例を超える感染例が報告されている。
2025年7月には初めて神奈川県で発症が確認された。
朝日新聞(https://news.yahoo.co.jp/articles/9f6c209ca4f18fd20aa1c301d8c2a1f2955ade2f)
月別にみると、発症届出数が多いのは春から秋にかけてであり、最も多いのが5月である。この時期はダニの活動性が高く、人の野外活動も多くなることが原因と考えられる。
忽那賢志氏
アビガンが治療薬として承認 マダニによる感染症SFTS(重症熱性血小板減少症候群)とは?
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/d94f7fa7fd741665a5b41c7e006add907a8bcab9
株式会社食環境衛生研究所
上記のように、人・犬・猫、特に猫では非常に高い致死率を有する。
2025年6月にはSFTSに感染した猫を治療した獣医師がSFTSに感染して死亡したと考えらえる事例が発生した。
NHK(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250613/k10014834291000.html)
SFTSの治療法は一般的には対症療法しか存在しないとされる。
しかし、世界で唯一日本では、アビガン(一般名:ファビピラビル)がSFTSの治療薬として保険適用が承認されており、SFTSに対しては一般流通している。ただし、処方できる医師はSFTSへの使用について「十分な知識・経験を持つ医師」に限られ、患者発生後に医療機関に迅速に供給する仕組みとなる。
一方、アビガンは「新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症(ただし、他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分なものに限る。)」では、一般流通していない。
ただし、薬価は200mg錠で39862.5円と非常に高価である。
通常、成人には1日目は1回1800mgを1日2回、2日目から10日目は1回800mgを1日2回経口投与する。総投与期間は10日間。
したがって、薬価の合計は約360万円となる(実際には健康保険および高額療養費の適用となる)。
一般流通なので猫に対しても使用できないことはないかもしれないが、実際には困難が予想される(そもそも、マウスやハムスターでの有効性は検討されているが、猫のSFTSに対する有効性は証明されていない:Clinical Update of Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)。
SFTSに対するfavipiravir の有効性(臨床試験)
Suemori K., Saijo M., Yamanaka A., Himeji D., Kawamura M., Haku T., Hidaka M., Kamikokuryo C., Kakihana Y., Azuma T., et al. A multicenter non-randomized, uncontrolled single arm trial for evaluation of the efficacy and the safety of the treatment with favipiravir for patients with severe fever with thrombocytopenia syndrome. PLoS Negl. Trop. Dis. 2021;15:e0009103.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7899362/
SFTS患者を対象とした国内第3相試験は、主要評価項目の「投与開始から28日目までの累積致死率」15.8%(19例中3例)という結果で、事前に設定された閾値12.5%を下回ることができなかった。部会の審議では、これをどう見るかが大きな論点となったが、感染症発生動向調査に基づいて設定された閾値自体が低めに見積もられた可能性があり、実際の致死率は15.8%よりも高いとの見解でまとまった。
日本医事新報(2024-05-28)
なお、マダニが媒介する感染症には日本紅斑熱もある。
潜伏期:2~8日
臨床症状:頭痛、発熱、倦怠感を伴う。 発熱、発疹、刺し口が主要三徴候であり、ほとんどの症例にみられる。 つつが虫病との臨床的な鑑別は困難である。
※ただし、詳細に観察すると、
・発疹が体幹部より四肢末端部に比較的強く出現する(つつが虫病では主に体幹部にみられる)。
・つつが虫病に比べ、刺し口の中心の痂皮(かさぶた)部分が小さい などの特徴がある。
検査所見:CRPの上昇、肝酵素(AST、ALT)の上昇、血小板の減少など。
病原体はリケッチア・ジャポニカであり、テトラサイクリン系やニューキノロン系などの一般的な抗菌薬が有効である。
厚生労働省:日本紅斑熱について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169522_00001.html